PLASの現地活動ケニアプロジェクト-SCOPE現地レポート

ケニアレポート| 性の知識がもっとあれば・・・祖母の後悔

PLASの事業のひとつに、シングル家庭を対象とした「ライフプランニング支援」があり、子どもと保護者の両方にカウンセリングを行っています。

 

保護者が、子ども達の発達や教育に関する「保護者としての必要な知識」を身につけて、子どもたちが自分の意志で将来を計画し、選択できる力をつけるための適切なアプローチが出来るよう、カウンセリングを通してサポートをしています。

保護者へのカウンセリングテーマ

(写真)カウンセリングの様子

 

貧困家庭のシングルマザーたちの多くは、エイズで夫を亡くしたり、初等教育を中退していたり、また自らもHIV陽性で治療中であったりします。子どもの成長や発達、進路についての知識や情報を持っていない場合が多く、子どもたちに必要なサポートが出来ません。

 

そのためカウンセリングの中のひとつで、下記のようなテーマを扱っています。

 

  • SHR※
  • 若年での望まない妊娠の予防とマネジメント
  • 性感染症の予防と対策
  • 思春期の変化や特徴への理解
  • 子どもとのコミュニケーションの取り方

 

このプロジェクトを通し、子ども達の将来に重大な影響を与えるこれらの問題について、子ども達と充分な話し合いが出来るよう、保護者を後押ししています。

 

Sexual Reproductive Health ・・・「性と生殖に関する健康」と訳され、生涯にわたって身体的、精神的、社会的に良好な状態であることを指しています。

孫を育てるカレンの後悔

 

このプロジェクトの支援対象者のシングルマザー、カレン・ポンドは、過去に彼女自身も10代の妊娠を経験した経緯と、家庭における性教育の影響について語ってくれました。

 

カレンは、娘の代わりにHIV陽性で生まれた孫娘のアイリーンを育ててきました。アイリーンはウイルスと共に成長し、治療のため、近くの医療センターへも通っていました。

 

小学6年生になり、アイリーンは思春期を迎え、クラスメイトの影響で、HIV陽性のことを考慮せずに、当時付き合っていたボーイフレンドと性行為をしました。

 

祖母のカレンは、孫娘のアイリーンにそういった行為を辞めるように諭そうとしましたが、カレン自身も知識があるわけではないので、「どのように助言し、止めれば良いのかがわからなかった。」と語っています。

妊娠発覚と学校中退

 

その後も、アイリーンは同じく10代のボーイフレンドと性的関係を持ち続けました。彼は小学校を中退し、近くので漁師として働いていました。

 

アイリーンはほどなく妊娠が発覚しました。

 

10代での妊娠のため、たびたび妊娠合併症を起こした彼女は学校を中退することを決意し、出産を待つことになりました。

(ケニアは中絶を法律で禁止しています。)

若すぎる2人の結婚

男の子を出産した後、アイリーンと漁師のボーイフレンドは結婚しました。しかし、ふたり共まだ10代、結婚というものがどういうものかを完全に理解しているわけではありませんでした。

 

何度も何度も喧嘩を繰り返し、口論も絶えず、別れ話も持ち上がるほどでした。

 

傷ついたアイリーンは、祖母に甘えに実家へ戻ることも多かったそうです。そして、若い夫である漁師の収入だけでは、家族3人が食べて行くには充分でないこともあり、経済的な援助も必要でした。

 

カレンの話によると、この若い家族は家計が苦しくなると、常にカレンにお金をねだるようになり、アイリーンは結婚して家を出たにもかかわらず、結局のところ養っているのは祖母のカレンのままでした。

早すぎた息子の死

結婚して半年たったころ、アイリーンの息子は重い病気にかかり、何度も病院に通うことになりました。その通院費や薬代を支払ったのもカレンでした。

 

生まれたばかりの男の子は、回復することのないまま1ヶ月後に亡くなってしまいました。

 

子どもの葬儀が終わってからも、夫婦間の喧嘩はたえることがなく、アイリーンは、その度に祖母の元に慰めてもらうために逃げ込み、そしてお金の無心をするのでした。

 

このカウンセリングの最中も、夫と喧嘩をしたアイリーンが、祖母カレンの家に戻ってきていました。

もっと早くに性教育の知識を持っていたら

(写真)子どもの年代別に必要なケアを学びます

 

カレンにとって、現在受けているPLASのカウンセリングで得た情報は非常に実用的で、アイリーン以外にもいる6人の孫には、良い保護者になれていると思うと話してくれました。

 

カレンは、女の子を育てるためにはより多くのケアとスキルが必要だと言います。

 

だからこそ、カレンは「アイリーンが結婚する前にこの情報を手に入れたかった」とも。そうすれば、アイリーンは妊娠することも学校を中退することもなかったのかもしれないと・・・。そして、新しい命を失うこともなかったかもしれません。

 

保護者としての必要な子どもとのコミュニケーションスキルや性教育に関する情報と知識を得たカレンは、現在家にいる6人の孫をより良い方法で育て、将来へと導くことを心に誓っています。

性教育の大切さを改めて感じました

 

この話を聞いて、わたしたちPLASもとても心を痛めています。

もっと早くカウンセリングを届けることができていたら・・・。何かが変わっていたかもしれません。

 

失ってしまった新しい命のことを想うと、胸が張り裂けそうです。そして新しい命を失ってしまったアイリーンのことを考えると、その悲しみがどれだけ大きかったかと胸が痛いです。

 

こうした現実は、アイリーンに限りません。

若年層の望まない妊娠や、少女たちが妊娠期や育児期に教育の権利が妨げられてしまう状況は、アイリーンに限らず、大きな社会問題となっています。

 

こうした現実を、少しでも知っていただければと思い、今回のレポートに至りました。

 

なかなか家庭や学校で話されない性についての正しい知識にふれることができるよう、保護者と子どもへのカウンセリングでは引き続きこれらのトピックを扱っていきます。