PLASの現地活動現地レポート

ケニアレポート -商社マン理事のケニア事業視察!事業評価のむずかしさ-

前回に引き続き、今回の現地レポートも理事の一宮暢彦が担当します。

前回は私がプラスでの活動を始めたきっかけに終始してしまい、現地レポートにも関わらず昔話に終始してしまいましたが、今回は久々の渡航で感じたことを書かせていただきます。

エイズ孤児の問題:見えにくい問題

日頃、日本で活動している時もいつも感じていることですが、やはり今回現地に行って改めてアフリカのエイズ孤児の問題というのは目に見えにくい問題だなと感じました。
今回の事業地視察は会社の同期である友人に同行してもらったのですが、事業地への移動のバスで彼に「今日はエイズ孤児に会えるのか」と質問されました。確かに私たちは「現場」にいたのですが、前回のレポートでも掲載した写真を見てもわかる通り、私たちの最終的な支援対象である子どもに会っていません。さらに言うと仮に地域のたくさんの子どもたちに会ったとしても誰がエイズ孤児なのかわかりません。
「NGOの現場」というと、見るからに悲しみにあふれた表情の人々がいることを想像してしまうかもしれませんが、プラスの事業地の景色は赤土ののどかな風景が広がっており、子どもたちも笑顔で接してくれます。私が学生の時にワークキャンプで小学校に滞在していた時も、適切な言葉を選ぶのが難しいですが、子どもたちは私たちから見ると「普通に」生活しています。このような現地の様子を見ると何の問題もないように見えますが、前回のレポートでも書いた通り、地域はHIV/エイズの問題があり、エイズ孤児が存在しています。この「一見すると普通な感じ」がエイズ孤児の問題の複雑な部分であることを今回改めて認識しました。


プラスの母子感染予防事業で、地域の啓発リーダーが作成した予防啓発ワークショップの報告書。
今後の改善項目など細かく書かれています。

プラスの活動:効果を伝えるのが難しい

これは普段私が働いている企業との比較になるかもしれませんが、改めてNGOの活動、特にプラスのようなソフト系の事業(モノを持たない事業)をやっているNGOは価値を公正に計り外部が伝えていくことが難しい事業であると再認識しました。企業であればヒト、モノ、カネを投下し事業を行い、時に他の企業と競争しながらお金を生み出していくことが1つの指標となります。最近ではそれだけでないという意見もありますが。そしてその企業の収益率を見て魅力を感じた投資家や銀行がさらに投資や融資を行い、企業は事業を拡大していくことができます。(半沢直樹風に言うと銀行は晴れているときだけかもしれませんが)

一方、NGOはどうかというと同じように資源を投入しますが、生み出されるものはお金ではなく、作りたい社会像(ビジョン)となります。この作りたい社会像がどれだけ世の中にとって有益であるか、事業を行うことによって作りたい社会像に本当に近づいているのかというのがNGOやNGOが行う事業の評価となり、たくさんの方に共感してもらえれば事業が大きくなっていきます。私が企業で行なっている投資事業は、その事業が生み出すお金がどれくらいなのかという1つの軸で客観的に評価できますがNGOの事業評価はもっと複雑になります。プラスの母子感染予防事業を例に取ると、事業の目的は母子感染の感染率を低下させていくこととなります。シンプルに考えるとこの感染率を評価指標におけばよいと考えてしまいますが、それだけでは完全な指標とは言えません。母子感染の感染率にはプラスの事業だけでなく、同地域で活動しているNGOや政策、人々の生活形態の変化など様々な変動要因がからむため、プラスの事業自体が直接影響を及ぼしている部分を抽出することはほぼ不可能となります。

では別の指標をとって、プラスの事業を通じて育成した地域の予防啓発リーダーの人数を評価指標にすると、今度はそのリーダーの質はどうなのかというようにどれを取ってもなんらかのツッコミが入る指標となってしまいます。ですので、現実的には定量面、定性面など様々な要素を抽出していって事業の妥当性を示していくしかないことになりますが、こうなると説明をするだけで多くの時間を要してしまいます。今回の視察で地域の現状を聞いて、実際に事業を動かしている駐在員(副代表)の谷澤と話す中で改めてこの難しさを感じました。


プラスのウクワラ事務所。現在2名の現地スタッフが勤務しています。

支援の輪を広げていくために日本でやるべきこと

ここまででお話してきた通り、エイズ孤児の問題というのは非常に複雑で見えにくい問題ですし、またプラスの行っている事業も簡潔に説明することが難しいものであることを今回の視察で再度痛感しました。と同時に、それでもやはり、エイズ孤児の問題というのは今もこの世界にある問題であることは確かで、現地に足を運んだ自分だからこそ、できる限りリードして問題の解決に向かうように進めていかないといけないと、久しぶりに現場に足を運んで実感しました。

プラスが将来的に活動を大きく展開していくためにはたくさんの人々の共感を生まなければいけないですが、一言でエイズ孤児の問題、プラスの事業の価値を伝える工夫を考えていかなければいきません。共感を生みやすさという点で考えると、エイズ孤児の問題に取り組むというプラスのビジョン、事業自体複雑なものを選択してしまったのかもしれませんが、私や他のプラスのメンバーにとって、ビジョンは譲れない部分であるし、母子感染の予防事業も価値のある事業だと信じています。日本や世界の人々がプラスの活動に簡単に参加できる仕組み、事業の良さがわかりやすく理解できる仕組みを日本側で改めて考えなければいけないと強く感じました。普段は企業にいてプラスの活動に割く時間の限られている身ですが、企業にいるからこそできる貢献をして多くの方にプラスのビジョン、事業に共感してもらえるように尽力していこうと思います。